感情推論の仕組み
本データベースでは、源氏物語に登場する香りの記述から、その香りがどのような感情を喚起するかを自動的に推論しています。ここでは、その仕組みについて説明します。
感情分類の基盤:プルチックの感情の輪
感情の分類には、心理学者ロバート・プルチックが提唱した「感情の輪(Wheel of Emotions)」を採用しています。このモデルは8つの基本感情を定義し、それぞれに強度のレベルを設けています。
8つの基本感情
| 感情 | 弱い | 中程度 | 強い |
|---|---|---|---|
| 喜び | 穏やか | 喜び | 歓喜 |
| 信頼 | 受容 | 信頼 | 称賛 |
| 恐れ | 不安 | 恐れ | 恐怖 |
| 驚き | 注意散漫 | 驚き | 驚嘆 |
| 悲しみ | 物思い | 悲しみ | 深い悲しみ |
| 嫌悪 | 退屈 | 嫌悪 | 憎悪 |
| 怒り | 不快 | 怒り | 激怒 |
| 期待 | 興味 | 期待 | 警戒 |
複合感情
基本感情を組み合わせた複合感情も定義されています:
- 愛: 喜び + 信頼
- 畏敬: 驚き + 恐れ
- 後悔: 嫌悪 + 悲しみ
- 軽蔑: 怒り + 嫌悪
推論の仕組み
キーワードマッチング方式
香りの記述テキストから感情を推論するために、キーワードマッチング方式を採用しています。これは、テキスト中に特定の感情を表すキーワードが含まれているかどうかを検出する方法です。
分析対象のフィールド
各香りデータの以下の3つのフィールドを分析します:
- Effect(効果): 香りが人物に与える影響や感情反応
- Quality(品質): 香りの質的な特性(良い/悪い、強い/弱いなど)
- Circumstances(状況): 香りが知覚される場面や文脈
推論例
例1:不快な香り
「御送り迎えの人の衣の裾から、絶えがたく、まさなき(不快な)匂いがすることもあった。」
この記述では「まさなき」という表現から、嫌悪と不快の感情が推論されます。
例2:心地よい香り
「梅の香が御簾の中の香りと吹き混じって、まるで生きている仏の国のようである。」
この記述では、美しさや心地よさを表す表現から、喜びと穏やかの感情が推論されます。
源氏物語特有の感情表現
源氏物語には、現代日本語とは異なる独特の感情表現が多く見られます。これらの古語表現も推論の対象としています。
| 古語表現 | 現代語の意味 | 推論される感情 |
|---|---|---|
| あはれ | しみじみとした情趣 | 共感、悲しみ |
| もの哀し | なんとなく悲しい | 悲しみ、物思い |
| つれづれ | 所在なく退屈 | 退屈、物思い |
| なつかし | 親しみを感じる | 愛、信頼 |
| かしこ | 畏れ多い | 畏敬、恐れ |
感情フィルタリング機能
香り一覧ページでは、推論された感情を使って香りをフィルタリングできます。
- 左側のファセットから感情を選択
- 選択した感情を持つ香りのみが表示されます
- 複数の感情を選択すると、すべての感情を持つ香りが表示されます(AND条件)
技術的な詳細
より詳細な技術情報については、以下のドキュメントを参照してください:
RDFデータ
感情語彙はRDF(Turtle形式)でも提供しています。Odeuropa プロジェクトとの互換性を持ち、SKOS(Simple Knowledge Organization System)に準拠しています。
今後の展望
現在はキーワードマッチングによる推論を行っていますが、将来的には以下のような拡張を検討しています:
- LLMによる高度な感情分析: 大規模言語モデルを活用し、文脈をより深く理解した感情推論
- 感情ネットワーク可視化: 共通の感情を持つ香り同士をつなげたネットワーク図
- 物語進行と感情の変化: 巻ごとの感情分布の変化を可視化